不動産の利回り完全解説。「意味と効果」を読み取り活用し尽くす方法

不動産の利回りに対する捉え方は、投資レベルでかなり理解と活用の深度が異なる。 初心者は、「年賃料を売買価格で割った指数」表面利回りを理解する。 一般的な投資家は、「運用純収入を取得費で割った指数」NET利回りを理解し活用する。 一流投資家は、「総純収入は投資元本が生み出す利率の結果」現在価値の概念を理解し活用する。 いずれも正解だが、貴方はどう理解していただろうか? 築古アパートと新築アパートの利回りについて、その差の意味を明確に理解し説明する事、そして、それぞれの取得すべき値を合理的に弾き出す事ができるだろうか? もし、できるようならば、貴方にこの記事は必要ない。別の情報に目を向けるべきだ。 しかし、もし、悩むようなら是非、目を通してもらいたい。 必ず役に立つはずだ。 不動産市場において目にする「利回り」は、物件の情報を収集する為のヒントにすぎない。 利につなげる為には事業決定迄に必要な情報を、調査、比較できるまでの指標を弾き出さねばならない。 ここでは、我々が一般に目にする「利回り」について、その種類と収集できる情報、解説を前半に行う。 後半ではその「利回り」より収集した情報をどう活用し、どう導き、不動産がもたらす利益を向上させる指標とするかを明示する。 不動産で使う「利回り」の種類と得られる情報 不動産売買情報の内、収益物件に関しては必ず「利回り」が表示されている。その「利回り」は、一般に「表面利回り」、「グロス利回り(Gross rate of return)」という。 利回りは英語でイールド「Yield」だが、イールドが登場する単語は限られている。多くが「rate of return」(〇に対するリターン)で表現される。英語で見ると印象がかわらないだろうか? 「利回り」の認識を整理する 英語を上げたのは、利回りの捉え方で理解の進み方が変わると判断したからだ。私は英語は苦手なので疑問にすぎないが、利回りという表現は日本固有のものなのではないだろうか。 日本証券業協会のサイトでは「利率」と「利回り」の違いを下記のように説明している。 利率 (年利率)は、額面金額に対し毎年受け取る利子の割合のことです(表面利率ともいいます)。債券の利率は、発行するときの金利水準や発行体の信用度などに応じて決まります。一方、利回り(年利回り) は、投資金額に対する利子も含めた年単位の収益の割合のことを指しています。 日本証券業協会「投資の時間」 個人差はあるだろうが、正直私は掴みにくい。そして、英語で表現された「Rate of return(〇に対するリターン)」を照らし合わせるとしっくりくる。 不動産で使う「利回り」は確かにいずれかの元本に対する、年間リターンを表している。 表面利回り【グロス利回り】 英語では「Gross rate of return」。 ほとんどの販売図面で表記されている利回りはこの表面利回りである。この利回りは、「年間賃料」と「販売価格」のどちらか欠けている情報を埋めてくれる。 表面利回り:年間賃料収入÷販売価格 「満室」または、何もかかれていない場合は、その物件が満室稼働した場合の想定年間収入と売買価格の情報である。 「現況」で表示されている場合は現在の入居状況から判断した想定年間収入と売買価格の情報である。 いずれも「想定」という単語が入るのは、賃借人が一年間借り続けてくれるかは「想定」だからである。 販売価格が1000万円、年間満室賃料収入が90万円であれば、利回りは9%。月の賃料は7.5万円。 表面利回りは販売価格・年間賃料を把握する為に使う 実質利回り【ネット利回り】 英語では「Net Operating Income rate of return」。 運営純収益を指すNet Operating Incomeの「Net利回り」、頭文字である「NOI利回り」という。ここでは財務・金融用語で一般的なNOI(えぬおーあい)で統一しよう。 NOI利回りは自己の調査により、各コストを割出し使用するものである。 NOIは、資本的支出を考慮せず単純なキャッシュフローベースの収益。連続した期の修繕費用等の費用を考慮しない。(≠NCF) 実質利回り:運営純収益÷(売買代金+購入諸経費) 通常、実質利回り・NOI利回りというと「経営にかかる経費等を考慮して計算した利回り」とされるが、経費をどこまで考慮するかはその数値を出した人次第である。 厳密に算出する場合は、元本部分にあたる物件取得費は、売買価格に購入諸費用と不動産取得税を加えた額。収入は単年の運営コストを全て控除した運営純収益を対象とする。 購入諸経費 仲介手数料、登録免許税(登記費用)、司法書士報酬、火災保険地震保険料等、適正な価格での取引ならば売買代金に対し7%前後。 リンク先は、(公社)全日本不動産協会、国税庁、あいおいニッセイ同和損保 不動産取得税 固定資産税評価額に対する3～4%前後。東京都主税局|不動産取得税 運営コストを控除した純収入を算出 当社で用意しているシミュレーションページ(Free Tool)をご利用頂きたい。1年設定、空室率を調整して試算。「物件収支税引き前」欄にある「◆税控除無・蓄積金」が純収入にあたる。 https://karyu.co.jp/service-free-tool/simulation NOIと取得総コストを対比する為、グロス利回りと比べるとNOI利回りの方が実態に近い。 先に例に挙げた架空の物件でみてみよう。 調査の結果、取得合計金額が1070万円となった。そして、年純収益は53.5万円だったとしよう。NOI利回りは5%だ。 しかし、5%だったから20年運営したら全額回収だろうか?そんな事はありえない。 この指数は単年の純収益を基準にしているに過ぎない。不動産の運用益は変動する。 だが、物件に対するコストを洗い把握できた事は、これより先の分析に非常に役立つ。 実質利回りはその数値よりも「取得にかかる費用の調査」と「運営コストを割り出す作業」の方が重要 還元利回り【キャップレート】 英語「Capitalization rate」(Cr)。 不動産を使用して得られる収益から当該不動産の価格を求める時に使用される利回りとされている。 *NCFを還元利回りで資本還元し、収益価格をもとめる。 NCF(純収益)は、NOI(運用純収益)と異なり資本的支出(修繕費等)も考慮するが、減価償却費や借入の利息は考慮しない。NOIは単年度の純収益、NCFは指定期間内の純収益と捉えると覚えやすい。 不動産業界では収益還元法の内、直接還元法(DC法|Direct Capitalization Method)が頻繁に使用される。 NOIを基準に収益価格を算出する使用が業界で一般的だが、正しくはNCFである。 NCFを使用するには連続した期の運営試算が必要になる。 Cr:NCF÷収益価格 収益還元法の直接還元法(DC法):NCF÷還元利回り=収益価格 鑑定では、将来予測等を加味して標準化(平準化)した純収益を基準に収益価格を算出するのが一般的という。 「利回り」を活用して全てを把握する 表面利回りで賃料を把握し、NOI利回りから収益性を表す数値も手にできた。 その過程で不動産の運用純収入(NOI)、期間内の純収入(NCF)も理解した。しかし、還元利回りの解説を読んで疑問に思わなかっただろうか? 適正な利回り、価格なのか? 還元利回りは、直接還元法において純収益の割引現在価値を算定する際に使用する。 適正価格かどうかは、還元利回りを算出できなければ判断ができない。 適正価格を知る為にキャップレートを算出 Crを算出する工程は、本来不動産鑑定士に依頼するものであるが、一定レベル以上の投資家は、自身の投資先を適切に選択する為、概算数値を算出する仕組みを保有する。 Cr算出の手法 類似の不動産の取引事例との比較する方法 借入金と自己資金に係る還元利回りから求める方法、 土地と建物に係る還元利回りから求める方法、 割引率から求める方法 借入金償還余裕率から求める方法 POINTは、使用できる程度の精度(正確に算出するのは素人には至難)と汎用性、速度である。もちろん、潤沢な資金があるならば、適正価格の判断の段までは飛ばしていただいて構わない。スピードに難はあるものの鑑定士に依頼した方が正確だからだ。 上記方法の内、2つ目が、我々不動産投資家には向いている。借入と自己資本の関係はどの不動産だろうと我々は把握する事が可能だからだ。(自信のない方は、Free Toolの時価評価算出・借入枠算出をご利用頂きたい) キャップレートを別の視点でみる 情報に精度を求め、自身の事業計画を選定の材料とする投資家は同じ収益還元法の中でも直接還元法(DC法)ではなく、DCF法による収益価格を求める。 DCF法を選ぶ理由:直接還元法(DC法)は、厳密なCr算出がされた場合はいいが素人には難易度が高すぎる。殆どの場合、対象不動産の資産性が考慮されない。 単年度の収益性を示すCrは、連続した期のNOI、NCF、復帰価格(売却)等を各時点における現在価値におきかえる。 その関係性から、割引率「Discount Rate」(Dr)から元本の将来変動率(X)を差し引いた関係になる。 Drは、これから我々が算出する方法でいうと、「借入金と自己資金に係る還元利回り」と「その市場における一般的な投資家がもとめるリターン」により構成される。 単年(DC法)Cr=Dr-X ・複数年(DCF法)Dr DC法の資本還元率はCr、DCF法の還元率がDrの関係。上記より、Drを算出できれば目的である投資判断に使う収益価格を算出する事ができるとわかる。 割引率(Dr)構成を整理する 負債コスト、株主資本コスト(自己資本コストの方がイメージが湧く)を最終的に加重平均して算出する必要がでてくる。 負債コストは、借入金利で設定(個人的にはインフレ率もと考えるが…)。 自己資本コストは下記の構成。 リスクフリーレート(無リスク金利:10年国債利回り)+期待インフレ率(2%)+β×マーケットプレミアム(5%) βは、投資家の期待値とマーケットプレミアムとの対比。 我々が対象とする個人向け収益不動産市場の場合、物件取得時の自己資金割合は精々3.5割。それ以上は少ない。β値は2.85になる。 仮設定になるが、それぞれ、0%、2%、2.85×5%、合計16.25%を設定できる。 ノンリコース枠を把握し、CF算出準備 標準的な借入方法を基準とする為、対象不動産のノンリコース枠を算出、標準的な金利、期間で運用した場合の連続した期のCFを算出する事ができる。 売却価格⇒復帰価格を算出 DCFでは10年前後で試算される事が多い。一般的な売却方法を考慮して、売却価格を決定し、受取り額(復帰価格)を算出。 保有期間終了時に受取る事になる復帰価格は期間終了の翌期にあたる為、不確実性も加わることから異なる割引率が設定される。 これをターミナルレート(Terminal Capitalization Rate・Tr)という。しかし、その予想シナリオを描くのは我々には難しい。現状を基準にする他方法がないと言える。 7～15年程度で設定するものらしいが、個人的に伺った話では修繕費等を考慮すると整合性が取り難くなったり、(オフレコだが)要望と離れすぎてしまうという事があるらしい。 実需販売となるプランの場合 我々ができる最善方法として、現時点における価格を算出して対応する。積算法(原価法)の評価を基準に可能であれば比準法(取引事例比較法)を使用し算出する。 尚、先に紹介した積算法(原価法)・時価評価算出ページの下部に担保評価に関しての解説がそえてある。収益物件を実需販売する際の注意点も記載しているので確認頂きたい。 https://karyu.co.jp/service-free-tool/automatic-calculation-of-market-value 収益物件として販売するプランの場合 指定末時点でのノンリコース枠に加え、先に紹介した「その市場における一般的な投資家がもとめるリターン」の構成要素である自己資金の回収率(Rtとする:先の例では16.25%)で算出し、正味現在価値(借入分は除く)を算出する事で決定できる。 尚、正味現在価値「Net present value」(NPV)は、エクセル関数で簡単に算出する事ができる(Microsoft|NPV関数)。 「売却価格:売却時点のノンリコース借入枠」+「NCFを基準に割引率Rtを用い正味現在価値を算出」=売却価格+諸経費 実需販売、収益物件での販売いずれも、売却価格から諸経費を差し引き受取額を算出。 復帰価格:売却価格-諸経費 合算した収益よりDr・収益価格算出 全てのNCF、復帰価格が算出できている為、Drは内部収益率「Internal Rate of Return」(IRR)で算出する事ができる。 収益価格:期間NCF合計+復帰価格を割引率(Dr)で割り戻す(正味現在価値) IRRは、端的に説明すると投資期間における一年当たりの年利回り。 正式な手法ではなく、投資効率から逆算した数値になる為、相場というわけにはいかないが、上記工程で算出された収益価格は、対象地域で動く平均的な投資家が取得対象にする価格といえる。 利回りの差本記事の最初の問い、利回り(Gross)の差について、これまでの工程で理解できただろうか? NCFだけでなく、復帰価格はその総量が多い為、最終期で計上されるものの価格に与える影響が大きい。 上記で使用した方法はCr、DCF法の割引率(Dr)の算出を自己資金と標準的な借入額より導きだす方法をとった為、理解が早かったかもしれない。 理解は進んだだろうか? 投資効率向上を目的に戦略選定 運営期間、借入調整、調達金利の調整、運用方法、売却手段・方法を検討し、投資効率の向上する事業プランを探していく。 上記までの工程と異なり、対象は自身になる為、より精度の高い数値を使い検討ができる。 自身が対象である為、税率が確定できる事から、WACC(Weighted Average Cost of Capital・加重平均資本コスト)を使用する事も可能だ。 ここでの判断は、WACCを割引率としてNPVの値が最も大きくなるプランを探し出す事である。 その数値が大きくなるならば、他に負けずに値を入れられるかもしれない(競り勝てる)、運営プランとして考えた場合は効率のよい運営方針が判断できる。 まとめ 表面利回りで年間賃料を把握し、実質利回り(NOI)で単年の運用純収益を把握する。 その過程で、期間の純収益(NCF)を把握する事ができ、還元利回り(Cr)で収益価格が算出されるはずだった。 しかし、Crが設定できなければ収益価格を算出する事はできず、我々は借入・自己資金より算出する過程を追った。 DCF法による割引率(Dr)が算出できた事で市場における平均的な投資家が取得対象にする値は把握できる。 次に、これらの数値を駆使し、自身の投資先と見据えて借入額、金利、運用方法、売却手段等を調整して最も効率のよい投資戦略を探る手段とした。 同じ不動産であってもその運用方法によって投資効率は大きく異なる。 あとがき 不動産情報を目にした際に必ず目にする事ができる表面利回りからスタートし、情報を読み取り、数値を駆使し収益情報を可能な限り算出する工程を紹介した。 業界で一般的に使用される「利回り」だが、そこから読み取れる情報を上手くよみとり、投資判断に効果的に活用して頂きたい。 利にそれほどこだわりがないとしても、対象は収益不動産である。 収益を向上させる事こそが、様々な将来の問題を解決してくれる。 皆様のお役にたてた事を願う。

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