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一般に一棟物の不動産投資という事で一括りに語られる事の多い一棟マンションだが、硬固建物であるが故に実は投資戦略は全く異なる。
一棟マンションを投資対象とする場合、今まで紹介してきたアパート投資や区分マンション投資とは、 1 棟マンション投資の目的とする投資成果の得方が異なると表現した方がよいかもしれない。
本来は出口戦略は重要ではない。だが、出口が非常に重要になる戦略を選ぶ方が多い
上記の事が全てを物語る。一棟マンションは本来、不動産投資の中で最も投資性 ( リスクが少ない ) 対象物の一つと言えるはずだ。
他の物件タイプと同様な戦略をとろうとする事によりそのリスクは劇的に上がる。そしてこの認識をしていない市場参入者は非常に多い。
この記事では、一棟マンションを所有した場合の利点、状況を確認し、その運用から得られる利益享受の仕方とリスクをとる場合に注意しなければならない点、更にその場合でも利益を獲得する術を示す。
常識・認識はあまりに大きな違いを生むものなので本質を掴むよう気を配りつつ、順に目を通していってほしい。
求める目的は大きく二つ
キャッシュフローを増やし資産を積極的に拡大、安全資産として確実に純資産を増やしていく目的。
現在、不動産投資ブームによるものかは不明だが、この記事をお読みになっている方の中にも物件取得、不動産運営によってキャッシュフローや資産の拡大を積極的に狙い、その高いレバレッチ効果に注目して取り組む方は多いだろう。
しかし、不動産運営においては資産の拡大といってもそのアプローチ方法は別の認識の元、後者を目的として取り組まれるのが主流といった方がいいかもしれない。
具体的にいうとアパートや区分マンションを投資対象とした場合、出口戦略が極めて重要であった。
だが、 1 棟マンション投資の場合、主流は超長期的保有とその保有による資産拡大効果を高める事にある。
もう少し、落とし込むと、区分マンションやアパートは必ず出口戦略が必要である旨を何度も説いてきた。
その大きな理由は物件の建物減価または取引価格の下落が融資利用による元本償還額より大きくなる時期がある為であった。
物件という資産の目減りとキャッシュフローによる補填、そして売却までをトータルに調整しなければならない理由がここにある。
一方、 1 棟マンションの場合、建物減価は年 2% 前後、土地建物合計でみると 1% 前後で収まる。仮に融資を利用した場合は、期間は 30 年前後。
キャッシュフローが担保されていれば保有していくだけで年 2% 前後純資産が増えつづけるのだ。
上記を理解するとわかるように、 1 棟マンション投資は正しく行えば基本負けようがない。逆をいうと失敗する条件はキャッシュフロー不足による経営破綻以外にはありえない。
所有目的・状況への認識
上記で述べたように長年マンションオーナーとして物件を保有している方の多くは、資産の蓄積場所、安全資産として運用しているケース、そのような認識である方が大部分をしめる。
1 棟マンションオーナーは物件が稼働不能となる時期になるまで選択肢として売却を考える必要性はない。
少なくとも 2000 年以前から 1 棟マンションを含めた硬固建物を賃貸しているオーナーは当初より借入金も適正以下の額である事が多く、保有によるメリットを享受している。
借入金が非常に少ない、または既にない場合、建物が賃貸できる状況であれば必要な時にリファイナンスし不動産から資金を引き出す事が出来る為、売る必要はない。
よって通常 1 棟マンションオーナーが売却が視野になる事は築年数が経過し、建直しをするか、別の不動産に切り替えるかだけであり、築年数が浅い物件で売却が視野にはいる事はない。
相続等でまとまった資金が必要というタイミングであれば可能性はあるが、多くの場合、古いものを処分する。
築浅物件が売りにだされた場合には借入超過が最も多く、次に多いのは取得後まもなく大きな資金が必要になった場合であり、ファイナンス枠を超えた価格で売り切る必要に迫られている可能性を認識すべきであろう。
いずれにしても取得に動くかどうかは慎重に吟味する必要がある。
目的別アプローチ
上記で述べてきたように 1 棟マンションを投資対象とする場合、自身が本質的にその投資でどこを重視するか検討すべきであろう。
多くの方が取り組む安全資産として長期保有による資産の確実な拡大に重きをおくならば、ハイレバレッチによる取引を望むのではなく、運用益により確実に保有し続ける事が可能な借入比率、条件を定める事が肝要だ。
安全資産として適正な価格、そして適正な借入状況によってえられば 1 棟マンションは将来に引継ぐ資産として最も好ましい物件だ。
安全資産といえるということは市場価格では利回りも低い水準で取引されるのも当然であり、取得には自己資金も必要であり一定規模以上の力をつけてから取得することになる投資対象物である。
次の二点を両面からみて整合性のある投資対象を見つける事ができる。
物件価格 - 物件の将来収益の蓄積金→土地価格として高低判断
物件価格に対する将来収益の蓄積金 + 土地時価の比率 ( →内部収益率算出 )
次に目的がキャッシュフロー、積極的な資産拡大を求める、レバレッチ効果を最大限活用した取引を望む場合をみていこう。
先に言及しておくが、レバレッチ効果を高めるという事は運営難易度を上げることになり、当然、それを実行する場合には出口戦略も検討しなければいけなくなる。
本来売却を検討することが不要な物件を選別すべき市場で出口戦略が必要な投資をするという事の意味を認識した上で検討いただきたい。
その場合、先に述べた通り、取引条件を精査していくとほとんどの場合、対象になりうる物件は一定以上の築年数が経過した物件になるだろう。
先に述べたように築浅い状態で売り物となる場合、相応の理由があり、間違って売りに出されるケースは稀だからだ。
もちろん、間違って売るという判断をする方もいるかもしれないのでその場合は全力で取り組むだろうが、本来 1 棟マンションは売却する必要がないはずであるという事を頭の隅に必ずおいておくことをオススメする。
ここまで前提がかなり長くなってしまったが、ここからは積極投資を目指す方へのその方法論として話を進めていく。
それぞれのタイプによって影響を及ぼす POINT があり影響を大きく分類するとマンションの築年数、 平均の室内の広さ、坪賃料の高低差の三つのポイントが特に大きな影響を及ぼすもので、それぞれの特性を十分に把握した上で戦略を練る必要性がある。
まずはマンション投資におけるすべてに当てはまる特徴を再確認しつつ、それぞれ進めていこう。
投資対象として見た場合の特徴
硬固建物となる 1 棟マンションの場合、建物の法定耐用年数が最も短い重量鉄骨であっても 34 年、 RC であれば 47 年という点から減価速度が緩やかで資産形成にプラスの特徴で運営上の難易度は低いといえる。
減価速度が遅いということは終値が落ちにくい。よって当然適正利回りは他物件種類に比べて低く、すなわち現在価値も高い。
リスクが少ないことである為、取引対象としての問題にはなりえないが、物件取得面においては強者 ( 資産を持つものでないと取得ができないケースが多く ) が有利といえる。
築年数による分別
他に比べてマンションは長期運用がしやすい物件タイプとなるが、取得時の築年数による影響を加味しなければならない。
また、借入比率を高め、一定以上の粗利回りを確保したい場合、ある程度築年数の経過した物件が対象となるケースが多くなることから築年数の影響をどのようなものか把握しなければならない。
通常不動産は融資を利用して購入する形がほとんどであり、流通価格、物件の資金調達能力も大きな影響を及ぼす。建物比率が一般的に大きな投資マンションについては借入期間が建物の耐用年数に依存する部分がある。
その点を考慮すると RC のマンションであれば、新築から築 17 年程までは、ほぼ同条件で 30 年の融資利用ができる。つまり流通価格において築年数による価格差が少ない時期といえる。
今まで過去の記事で紹介してきた通り、賃貸住宅は築 15 年程度を境に修繕コストがかさむ時期がくる。順調に 運営してきた場合でもこの時期になると運営上のパフォーマンスが一度大幅に下がることは考慮すべきだ。
特に高価格帯での取引となる大型マンションの場合、 物件取得者の不動産投資レベルも高く修繕費用の精査はかなり厳密に行われる可能性が高い。
よって価格幅が少ない時期というのは新築 10 年程度として考えると良いだろう。この時期においては運営期間においても非常に利益を確保しやすく、また売買の取引という面においても安定した価格帯で取引ができる可能性が高い。
本来 1 棟マンションで築年数が浅い場合、そもそも売却が視野にはいる事はないが、取得時にあまりに高く取得してしまったか、借入が多すぎる方が売却を検討するだろう。
その際には、借入比率を高めようと思えば高められるこの時期を逃さないようにしてほしい。
築古マンション
築年数が 17 年を超えてくる物件の売買取引における買い手が資金調達をする際、融資比率が高いと融資期間が長期で組めないという問題が発生してくる。そのため取得者側でいえば融資利用の難易度が高まるといえる。
上記のような理由で築年数が経過してくると借入可能枠は下落しやすい為、市況によっては購入できる方が著しく減るという事も考慮してもらいたい。
購入希望者も物件売買時点における築年数から想定される平均的な融資利用の返済期間が影響を及ぼし取引価格に引き下げられているケースは多い。
融資条件を自分のそぐう形にする為に検討しなければならない部分を次に続ける。
最大のハードル
先にも少し述べたが物件の担保価と売り出し価格との乖離が非常に大きなケースが常態化していることだ。この担保価と売り出し価格の乖離において、収益力の強い物件は、収益性を重んじるタイプの金融機関であれば借入金が期待できる。
しかし本質は担保価を全くみないわけではない。あくまで収益を重んじるにすぎず、収益価格は大きく変動することが問題なのだ。
よって融資利用の難易度とともに高額な融資を獲得した場合、賃料下落があった際のダメージは大きい。
鍵は収益か、担保か足りない部分を補える材料を持っているかどうかといえる。融資については「不動産融資バイブル。「銀行の審査基準」が重要なのではない。 ☑」を参照頂きたい。
考慮すべき 2 つの点
「区分マンション投資指南書。必勝の道は「坪賃料と実需」にあり。 ☑」を紹介した際、勝利戦略は各部屋の平均の大きさによって異なることを紹介した。
その問題点は一棟マンションでも同様に適用され、間取りが小さな部屋に対し大きな部屋は内部コストの比率が低くなるということがあげられる。
まとまった小さな部屋で構成された一棟マンションは当然賃料収入が増えるがコストも比率が大きい。また単身者用の中でもワンルーム規模の大きさの場合、入居者の回転率も上がり、コストがトータルで高くつく。
区分マンションと投資用ワンルームマンションは長期運営するためにはかなりの坪賃料が必要であるということは覚えているだろう。
坪賃料の低い地域で小さく区分分けされた物件は長期保有に向かない。部屋単体でみても長期的には収益が上がらないという問題だ。
坪賃料が非常に高い地域でワンルームと小さな区分分けをされた物件の場合、家賃料が稼ぎ出す収益は非常に大きい。同じ東京 23 区内においても坪賃料、部屋の構成と照らし合わせることを特に注意していただきたい。
また先に上げたようにマンションは建物比率が大きいことから将来的な売却時における築年数、建物耐用年数が非常に大きな問題になる。
マンションにおいても地域がいくらがよいとしても新築時に比べると家賃の下落は発生する。
長期的な運用の後に売却をする際、あまりに短い融資期間では運用できる方がいなくなってしまうであろう。
つまり売却先がないという現象が起こる。特に建物耐用年数が 20 年を切ってくる場合、どのような出口戦略をとるか、保有か判断がし難いならば、保有期間における収益を取り出してみると答えが見えてくるだろう。
ふたつのポイントとは、対象物件の坪賃料の精査と取得時、売却時の築年数の二点だ。ここは非常に重要な POINT である。
一棟マンションの売買取引価格は物件の収益源からみる。どの収益源から融資の利用金額と物件の資金調達能力を考慮することを絶対に忘れないようにしなければならない。
坪賃料の差による影響
売買においては見過ごされがちな坪賃料の影響は、これまで何度も言及してきたことだが今一度紹介しよう。特に長期運営におけるコスト比率の高くなる 1R や 1K 間取りの場合、表面上の賃料収入は多くなりやすい。
しかしながら設備等のコストは部屋の大小による差がほとんどなく、クロス張替等の一部分においてしか出ない。
基本的にワンルームマンションであった場合、月の純収入で 5 万円を切ってくると大規模修繕、内部修繕費が重なって来る。
15 年以上の運営は難しく、一部屋あたり 4 万円の純収益をあげられないようであれば、赤字になる可能性が極めて高いということを覚えておこう。
逆に一部屋単位の賃料が高く = 坪賃料が高い物件に関しては、その部屋の固定の費用を上回り非常に収益があげられやすい。
収益力を上げるため、ワンルーム、 1K の部屋で構成された収益性の高い高層マンションは、地域と物件の坪賃料が勝敗の決め手になる。もし坪賃料の少ない物件であった場合には出口戦略を良く考慮する必要性を忘れてはいけない。
一戸当たりの間取り・大きさ
また以前にも紹介した一部屋あたりの大きさについてである。 反復するが、通常、宅建業免許がないものは、不動産の売買も不特定多数に売買することはできない。
将来的に宅建業取得を検討されている方は、非常に重宝する出口戦略の一つなので熟読していただきたい。
以前にも紹介したことであるマンションの実需販売、住宅としての販売はもちろん金融機関による築年数等の縛りがあるケースもあるが、メガ銀行を含む各金融機関で築年数を問わず最長 35 年の住宅ローンを利用することができる。
クリアしなければならない問題は大きく二つだ。
一つは登記の問題。 1 棟マンションの場合、通常土地建物の登記だけされている。各部屋を住宅として売買しようと考えるならば、表題登記を変更する必要性がある。
必要な手続きとは敷地権設定と建物の表題登記変更による区分登記だ。
もう一つは、分譲する形になるわけだから、現時点においてはワンオーナーであるかもしれないが管理組合の設立が必要である。管理規約の作成とともにマンションの管理会社、できることならば大手を選ぶとよいだろう。
一棟マンションを最終的に住宅として販売するプランを練る場合、住宅としての販売には登記の問題とこの管理規約、管理会社の管理を導入して、区分所有法に適合させる必要性がある。
この方法が取れる物件を選別するためには、 1 部屋平均当たりの間取りは一定以上なければならない。紹介したが区分マンションとしての登記面積が一部屋の面積 30 平米以上にならなければならない。
ワンルームの部屋で構成された物件よりも収益性は低くなるケースがほとんどだろう。
投資期間中の収益は少ないものの売却時の利益は非常に大きく伸ばせる可能性が高い。出口が明確にしやすいという点で特に一定以上の築年数を過ぎたマンションにおいてはおすすめの戦略。
鉄板の勝利の方程式として認識していただいてよろしいだろう。
まとめ
一般に一括りに一棟物の不動産投資として解説されるマンションだが、その特徴から他の物件とやはり投資戦略が異なる。
まず、マンション保有の利点、保有時・保有者の状況を紐解き、対象物件の仕入時点における推測がなせるように解説した。
長期保有がし易いマンションに対し、急速な規模拡大を求める、高レバレッチを利かせる場合、本来あまり重要ではない出口戦略が必要となる点、収益向上を実現する為の道筋を示した。
本来、出口戦略があまり重要ではないという点が、今まで解説してきたアパートや区分マンションと大きく異なる点である。
これまで解説してきた運営、仕入、資金調達等の解説と照らし合わせて頂く事で理解が進んだ筈だ。
一棟マンションは本来、長期保有を目的とし、そして二度旨味を引き出すことができる非常に資産性の高い物件である。
個人的にはレバレッジを強く利かし収益を上げるタイプの物件にするのは勿体ないいう認識もあるが、個々の好みによるだろう。上手くこの情報を活用してほしい。
あとがき
硬固建物であるマンションは本来長期保有を目的とし、それが実行可能で利益を享受できるタイプの不動産である。
しかし、そのマンションを不動産投資として規模拡大、レバレッチを最大限聞かせながら取得したいと願う投資家にとっては出口戦略が必要になる。
これまで紹介してきた通り、そのマンションが生み出す坪賃料が長期において重要であることがみえてきただろう。
坪賃料の低い所であれば運用そのものの収益を長期的には稼いでくれない。
場合によって大きな赤字を叩き出すことになる。
取得においては魅力的にうつるマンションだが、長期運用できる条件とできない条件を明確にし、長期運営できない場合には出口戦略が必要だ。
出口戦略においての鍵は、その時点における建物の法定耐用年数が最も大きく、収益性との戦いになるか、現状のまま変化なく売買をする場合は収益性の高い小さな部屋で構成された区分マンションが優れている。
しかし、築古物件となると出口がかなり厳しい。
間取りの大きな物件は、収益性が落ちるものの売却価格は非常に読みやすく、場合によっては極めて高い収益となる可能性がある。
基本宅建業免許が必要になるが、この戦略を組み合わせると取得できる物件のチャンスは格段に増えるだろう。
皆様のお役にたつ記事である事を願う。