これから不動産投資・経営を志す方には必要不可欠な不動産賃貸経営の収支の算出法。経験者の多くは今更感を持つだろう。 しかし、本当にその全てを洗い出し、コストを把握しているだろうか? それほど運営費を綿密に眺めているだろうか? 経験者はいつも同じようにかかる費用にそれほど意識を向けてはいないのではないだろうか。 知っている、当たり前という認識こそがリスクを呼び込む。これを我々は認識性リスクと定義している。 認識していようが、していなかろうが、かかるものはかかる。事業は精度の高い数字を元に計画を練れば成功も手にしやすい。 また、運営収支さえしっかりと把握できていれば大きな失敗は防げる。 不動産の場合は、収入は単調な為、全てはコストの把握。これが防衛手段であり、成功の種にもなる。 この記事で解説する、不動産の運営収支について実際にシミュレートできる自動計算ページを用意している。この解説と照らし合わせる事で理解が深まるだろう。無料で使用できるので常用・活用頂きたい。 https://karyu.co.jp/service-free-tool/simulation 内部(室内)の修繕費 どの部屋でも固定的にかかる設備と室内の広さ大きさによって費用がかわるクロス、床などにかかる二種類に分かれる。 それぞれ当然のことながら劣化による修繕回数も異なっている。ここでは必要な各項目を明示し、新規参入者を想定したコスト単価を紹介していこう。 固定でかかる設備費用 各設備の修繕サイクルは、法廷耐用年数を目安に微調整して提示して()内に表示している。 コストを削減しつつ運営するには、設備を適切に管理・修繕が必要だが、基準の1.3倍程のサイクルで運営する事が可能だろう。 また、設備の工事単価はファミリータイプの物件の中級以上のグレードをイメージして設定している。単身者用、グレード、自身の調達コストに合わせ調整頂きたい。 注意点が1つ、現在は借家法が非常に厳しくなっている。耐用年数を大きく超える設備を使用した上で、入居者に損害を与えるような故障・事故が発生した場合には、大家は責任を問われる。コスト削減はしたいが常識の範囲内で、適切な管理・修繕が肝心である。 1室当たりのコスト一覧(材工費) 設備(耐用年数)高グレード標準グレード低グレードエアコン(8年)80,000円同じ同じ給湯器(7年)*120,000円同じ同じキッチン(15年)550,000円350,000円250,000円洗面台・洗濯板(15年)350,000円250,000円150,000円浴槽(15年)550,000円400,000円300,000円トイレ(15年)350,000円250,000円150,000円1室当たりのコスト一覧(材工費) ※給湯器はガス設備(耐用年数15年)ではなく器具・部品(6年)。設備はグレードを高め(のものを想定して上記では記載しているが、物件毎に単価を設定するとよいだろう。 尚、建具他、こまかな費用があるが、調整率等を設定する事で対処するとよいだろう。 室内サイズによって費用が変動するもの クロスの張替 変動するものはクロスの張替え工事だ。施工費用の算出は大凡どの部屋も床面積の約3.5倍程度の面積として計算するとほぼ一致してくる。 アパート等の場合、各室内の平均延床面積を出しておくと全体の費用を算出するのに役立つ。 角部屋は開口部(窓)が若干大きいため、若干小さくなるが許容としてもいいし差し引いてもいい、誤差の許容次第だ。 職人を手配し工事を依頼した場合、おおよその平米単価は1200円程度だ。尚、漆喰や塗壁、エコカラット等を使用する等、単価を調整しよう。 余談だが、壁面積の厳密な算出式は延べ床面積のルート2乗×4倍×天井高さ+延べ床面積-開口部面積だ。 床の張替工事 これは選ぶ素材によって単価は変わる。一般的なフローリングの場合であれば平米あたりおよそ8000円前後みておくとよい。 クッションフロアであれば、もう少し単価が安い。自身が運営する物件によってここは変化させてもよい。 部屋の大きさによって単価が変動する部分一覧 クロス張替工事(6年)床面積×3.5倍×1,200円床張替え工事(8年)床面積×8,000円(フローリングの場合) 外部修繕費を把握し積立金を設定 保有期間を短期としてみている場合、計上する必要がないと考える方もいるかもしれない。しかし、売却する時期に留保してきた修繕費が目に付くようになる。 売却値段に修繕延滞分が反映する。結局、自身でより売りやすい状態にするか、保留分を売却値で調整するかの判断の為、コスト算出をしておく必要性はある。 通常、賃貸経営では時々の収益から修繕費まかなっていく。時々で捻出、計上するという類のものではない。 修繕金を確保していく適正な積立額を把握しておかねばならない。 分譲マンション等で話題になりやすい修繕積立金情報は、ガイドラインが国交省の方で提示されている( マンションの修繕積立金に関するガイドライン - 国土交通省 )。 5000平米未満のマンションの場合、平均値は専有面積当たり月々で218円。ボリューム差により工事単価も変わる為、当社では260円程度積立していくことをおすすめしている。 規模が小さなワンオーナー所有マンションの場合、少々単価を高くし、予算を確保していないと不足に陥る可能性があるからだ。 また、予算が余ったとしても問題はない。余分は蓄積金になるだけだからだ。 突発的なコスト、将来の修繕費に備えることもできる。もちろんエレベーターなどの設備が充実したマンションの場合、それに伴う支出は考えられるのでその辺りも調整していく。 木造、軽量鉄骨はどうする? 木造、軽量鉄骨の集合住宅において、修繕積立金の目安の情報は見受けられない。 もしかしたらネット上には情報はないのかもしれない。ここでは特にアパート等の集合住宅に適用する慣用計算式を紹介していこう。 外部の修繕積立金に関しては、外壁、屋根、配管等の設備の劣化による修繕リニューアルが必要であることは多くの人が認識しているであろう。 それら設備の耐用期間はおおよそ15年だ。逆に言うと15年で一式修繕するスケジュールだ。維持管理修繕の為に必要なコストは建築費の20~25%前後と言われている。 建築着工統計(国土交通省)をまとめた国税庁( 物の標準的な建築価額表(単位:千円/㎡))によれば木造の標準的単価は平米当たり約16万5000円だ(H27)。 よって1サイクルに必要な予算が3.3万円~4.1万円前後であると確認できる。 外部修繕必要予算簡便算出式 修繕積立金設定額 = 3.3~4.1万円 ÷ (15年×12か月)× 延べ床面積 上記の計算では延床面積を基準にしているが、登記簿面積に反映されない部分が多い建物の場合は少々注意してほしい。 共用部分の内、面積計上されていないスペースがあるケースがあるからだ。廊下が長い物件の場合、注意しよう。 最初の設定によるが木造180円~230円を積み立てていく必要があるといえる。 尚、先に紹介した当社のシミュレーターでは、木造(W造)を200円・鉄骨造(S造)を230円、[鉄骨・]鉄筋コンクリート(RC等)を260円を平米当たりの月積立金として設定している。 管理費等毎月かかる費用を把握する 自主管理にするか管理を委託するかによって費用が異なるところであるが、管理費と清掃費用に関しては、自身で管理する場合は計上する必要性はない。 だが不動産投資において積極的に動く投資家は、管理を委託するだろう。そのため毎月かかる費用としては下記費用を参考にして頂きたい。 委託管理費 毎月かかる費用は維持管理費関連の大きく三つだ。委託管理をするのであればまさに上記の管理費。これは委託先にもよるが、5~8%程度で請け負う業者が多い。自身で管理する場合(自主管理)、費用はかからない。 清掃費用について (土地面積+建物面積)×15日×2回【清掃回数】=月々の清掃費用 こちらも自身で行うならば、計上しなくてもよい。 注意点は建物・土地の規模が小さく、5000円を下回る場合、上記計算式は無効だ。 一回辺り5000円未満で掃除をしてくれる人を探すのは極めて難しい。その場合、実際の手配の頻度を調整するか(おすすめできないが)、5000円の費用はかかるものだとして割り切ろう。 上記の計算式をみると理解できるが掃除には建物だけでなく土地の大きさとともに比例して、清掃費用がかかる。 依頼先によるので上手く調整しよう。 現在の賃貸市場において、少なく見ても清掃が2週間に1回以上行わなければ、入居者が住み続けるということは考えにくい。最低でも半月に1回は必要だ。 水道光熱費 共用部分に関しての電気代や清掃用の外部水栓などの料金は当然大家が負う。入居者は賃貸部分の室内にかかる光熱費しか負担義務はない。 共益費として費用を頂いている場合、それは収入の部であり、実費費用は計上しておかなければならない。 管理室がある場合はそちらの費用計上も忘れずに行おう。 その他、物件設備により計上すべきもの インターネット料:大家負担として提供する予定の場合は計上しよう エレベーターメンテナンス:1台当たり月々3,800円~5,200円(使用頻度とメーカーにより変動) 物件にかかる毎年の固定資産税と都市計画税・損害保険 固定資産税・都市計画税は税金になるので、東京都主税局のページで確認頂きたい( 東京都主税局|固定資産税・都市計画税(土地・家屋) )。 基本となるのは不動産の固定資産税評価額だ。集合住宅の場合、宅地に関して小規模住宅用地の特例措置などもある。 固定資産税・都市計画税率 固定資産税=固定資産税評価額を基準に毎年1.4% 都市計画税=固定資産税評価額を基準に毎年0.3%(23区内) 公課証明や固定資産税の明細・納付書を確認できれば税額が確認できる。 確認がとれない場合は、計算して概算値を把握するしかない。軽減制度を計算式に組み込み、いつでも答えが出るようにしておこう。 そこでひとつ、固定資産税・都市計画税を算出する際に必要となる固定資産税評価額の算出方法を明示しておく。 固定資産税評価額の算出法 この情報は対象不動産を購入する前に数字化したい方の為に明示する。 公課証明書が即時手に入るならこの作業は必要ない。 固定資産税評価額を算出するためには地価マップ( 全国地価マップ )が非常に利用しやすい。いわゆる路線価である。 路線価には相続税路線価と固定資産税路線価の二つがある。ここでは固定資産税・都市計画税を算出する為の評価額を計算する事が目的である為、使用するのは固定資産税路線価だ。 土地の評価というものは形状によって評価が大きく異なる。その調整率についても国税庁のホームページで確認できる( 土地及び土地の上に存する権利の評価についての調整率表)。 固定資産税評価額算出積算評価(原価法)・時価評価額の自動算出ページを用意している。【用途】を「自用」に設定し、算出された評価額を70%にしたものがここで求めたい、固定資産税評価額となる。 尚、建物の経過年数が法廷耐用年数間際や超えている場合、新築時の建物評価額の約13%程度前後が固定資産税評価額になるので、土地と建物を分けて算出する事で誤差の少なくできる。 https://karyu.co.jp/service-free-tool/automatic-calculation-of-market-value 火災・地震保険料の算出 次は火災・地震保険代だ。火災保険の計算式においては、計算方法がのっているサイトが沢山あるので、そちらを利用してもらうのもよい。 火災・地震保険の計算方法 【参考】あいおいニッセイ同和損保の計算ページ( あいおいニッセイ同和損保|地震保険 保険料試算 ) 入退去の度にかかる費用を把握する 入退去の度にかかる費用の一つ目はハウスクリーニング費用。こちらは部屋の大きさによって費用が変動するのでそちらの計算式は明示しておこう。 会社によって若干の費用の変動はあるかもしれないが、ひとつ基準となるのが25平米の部屋に対してのハウスクリーニング代は、およそ27000円前後、消費税を入れて約3万円で実行される。 それ以上かかる場合は面積によって増えた面積×600円で計上していけばどの大きさに対しても対応は可能だ。 ハウスクリーニングの費用の単価 27000円+(25平米を超える面積×600円)×消費税 仲介手数料と広告費 募集賃料×一か月間(広告費が必要な場合は1~3か月分) 鍵交換費用 鍵の種類にもよるが、高いものでも25000円前後で見積もっておけば十分だろう。安いものであれば1万円位で収まる。 鍵の費用は入居者に持っていただくことも可能だ。物件の募集賃料を考慮し、大家側で負担するのかを検討してもいいだろう。 退去の立会い 委託管理していない場合は、自身で立会いをすることになる為、計上の必要はない。委託している場合、立会い費用がかかる。 およそ1万円程度計上していくとよいだろう 。 その他・言及POINT 強いていうならば、物件が借地権付き建物の賃貸物件だった場合。借地の場合は、地代が発生し、土地の固定資産税・都市計画税は不要だ。 融資金(不動産ローン)のランニングコストを計上 ローン返済方式は多くの方が、元利均等返済になるだろう。そのため計算式はエクセルで行うと非常に簡単だ。 エクセル関数を使用して計算すると下記関数を使うことになる。 元利金支払額の計算 PMT関数 財務関数の 1 つである PMT は、一定利率の支払いが定期的に行われる場合の、ローンの定期支払額を算出します。書式 PMT(利率, 期間, 現在価値, [将来価値], [支払期日])Microsoft-PMT関数Microsoft-PMT関数 元金返済分の計算 CUMPRINC関数 開始から終了までの期間に、貸付金に対して支払われる元金の累計を返します。書式 CUMPRINC (利率, 期間, 現在価値, 開始期, 終了期, 支払期日)Microsoft-CUMPRINC 関数Microsoft-CUMPRINC 関数 期間内の総支払額(PMT関数)から元本返済額(CUMPRINC関数)を差し引けば利息が算出され、これにより元利金支払額、元本、利息の三つが導き出される。 なぜ利息の支払金額を分けて算出する必要性があるかというと、次の税額を計算する際に必要となるからだ。 所得・住民税を割り出し税引き後キャッシュフローを算出 法人の売買法人実効税率で一定となるが、個人の場合は各所得金額によって税率が変わる。 まず前提として対象不動産外の所得金額を算出しておこう。物件を運営する事による税率、税額の変動分を把握しなければ事業計画は立てられない。 注意すべき2点は、ローンの支払い金額の内、費用となるのは利息だけという点。対象物件の築年数、建物構造によって計上できる減価償却費用は異なる。 試算期間に償却できる額を設定する方式が簡単で正確な数値をはじき出すだろう。 不動産を保有することによって生み出されるキャッシュフローを割り出すためには、所得の算出と税額を割り出す必要性がある。まず税額を導くための計算式から進めていこう。 所得税・住民税(法人実効税率)を割り出す工程 1.家賃収入×(1-空室率)×対象期間 = 純収入 2.期間内の不動産支出の合計 = 純支出 3.期間内の利息の合計金額 4.期間内に償却できる減価償却費 課税所得金額 = 1.-(2.+3.+4.) 上記の物件を取得することによって導き出される課税所得金額を自身の購入前の所得額にプラスして税率が決まる。所得税に加えて住民税は必ず10%かかるので所得税+10%として計算してみよう。 それにより税額が割り出せる。法人の場合は税額は一定なので課税所得金額の割り出しのみで構わない。実効税率を確認しよう。所得税率表が国税庁のホームページにあるので確認しよう(国税庁|No.2260 所得税の税率)。 税率の出し方 物件の課税所得金額と保有前の課税所得金額を合わせての所得税率を算出、住民税率10%を加えた税率(法人は実効税率:一定) 税金額が算出できてようやくキャッシュフローが算出できる。通常、キャッシュフロー計算というと公式があるが不動産賃貸業の場合、個人もいれば法人もいるし、入り組む事もある。 その為、上記までで紹介した計算式を活用できるように整理した計算式を明示したい。 税引き後キャッシュフロー算出の計算式 純収入-純支出-ローン支払金額-税額 = 税引後のキャッシュフロー 上記計算式によって不動産を保有した場合の純キャッシュフローを導き出すことができた。 不動産は購入する前に収入と支出をかなり厳密に算出することが可能だ。 まとめ 不動産経営にかかる費用を厳密に把握する為の手順は下記のようになる。 内部修繕、そしてその修繕サイクルを設定し数値算出をする 外部・共用部修繕に必要なコストを把握し確保する 管理・清掃にかかる費用 水道光熱費 固定資産税・都市計画税 保険料金 入退去にかかる費用を把握し、サイクル把握 ローン利用の場合、支払い、試算期間の支払い金利の把握 上記の事それぞれのコスト発生サイクルで計算をしなければならない為、エクセル等で設定しなければ把握は難しい。計算式もある程度複雑になる。 また、エクセル等の表計算ソフトの扱いが不得意の方も多いし、複雑な表計算はiphoneやスマホでは算出できない。 その為、いつでも気になった時に利用できるように当社では先に紹介したシミュレーターを提供している。 不動産運営収支シミュレーター 無料使用を前提に公開している上記シミュレーターだが、試算期間の最終税引き後キャッシュフロー(蓄積金)と共にその時点のローン残債額も表示される。 数値を照らし合わせてどのタイミングで不動産を売却(現金化)、転換すればいいか等を見立てる事にも役に立つので是非ご利用頂きたい。 あとがき 運営収支の話という興味をもつのも難しい話だったと思う。 しかし、経営をする、経営再建、物件の再生の為には精度の高い数字が必要不可欠である。正確な数字があるから事業計画を練れる。 実際に、不動産投資、経営で失敗したという人の多くはこの運営中のキャッシュアウトに耐え切れずに初めて動き出す。中にはリカバリーの手段として売却を試みるも思う値で売れないと知り、愕然とする例も多々ある。 多くは不動産運営にかかる収支、キャッシュコントロールの不備に端を発している。 運営前からかかるものはある程度決まっているのだ。 知っていると思い興味を持てなかった人も多いだろう。 読み終えてみて、どうだろうか。 貴方はその全てを把握していただろうか? 知っているという認識は非常に多くのリスクを呼び込む要因になる。 利を出す為の事業計画も厳密な収支計画がなければ机上の空論しか描けない。 願わくば、貴方の役にたつ記事であったらと願う。