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不動産投資を行う動機として、キャッシュフローの増加と節税とを持つ方は多いだろう。
これらは不動産投資の最大の魅力といって過言ではない。減価償却はうまく活用することで大幅にキャッシュフローを伸ばすことができる。
逆に理解が浅いまま取り組んだとしても思うような成果が得られない。不動産は基本、税負担が非常に重い。その物件の潜在能力を引き出しきれるか否かは貴方次第である。
貴方は減価償却を有効に活用しきれているだろうか ?
減価償却を上手く活用することで税額を極限まで減らし、キャッシュフローを大幅に伸ばす事ができる。
そのためには深い理解と深遠なる計画が必要である。時に敢えて減価償却費を計上しないという選択が功を奏する場合もある。
減価償却は物件の取得時、そして大規模修繕等を行った際に、償却額や償却期間が決まる。そのタイミングで最有効プランを導きだす必要がある事項である。
その為、この記事では減価償却がどのように作用し、どのように扱えば利益を伸ばせるのかを、ひとつずつ基本から、非常に高度なレベルまで徹底的に解説する。
尚、非常に投資効率、事業成果に影響が大きいことから「不動産投資の節税の裏に潜む極大リスクを洗い出し収益を向上させる術 ☑」でも重点的に減価償却の影響・注意点を紹介した。合わせてご覧頂きたい。
躯体・設備・取得時期で決まる期間
減価償却とは資産を使用していくことにより価値が目減りしていくものを、費用計上していく会計上の制度だ ( 国税庁 |No.2100 減価償却のあらまし ) 。不動産投資の場合、建物、設備修繕費などがこの対象となる。
要するに資産を複数年に分けて経費化していく制度だ。
これは実際にその年度に使用していようとしていなかろうと経費計上できるということを意味する。いわゆる空経費のような扱いでとらえられるケースが多い。
うまく扱えば税額を抑え、税引後のキャッシュフローを増やすことができるのだ。
まずこの減価償却の基本として、各設備、建物において償却する期間は決まっている。不動産投資で扱う物件について法定耐用年数を確認していこう。
用途によって変わる償却期間
減価償却の情報となると構造による法定耐用年数の情報は非常に多い。しかしながら耐用年数は用途によって異なる。 賃貸住宅に対する場合の耐用年数ばかりが目立つが、実際の用途と償却期間は異なるので注意しよう。
各償却期間を確認する為、ここでは東京都主税局の耐用年数表を紹介する ( 東京都主税局 |償却資産の評価に用いる耐用年数 ) 。
http://www.tax.metro.tokyo.jp/shisan/info/hyo01_02.pdf
別表第 1 同 【建物】
各設備の償却期間
前回の記事の際に紹介した経済的耐用年数とは別ものだ。法定耐用年数が償却期間になるので間違えないように注意していただきたい。
http://www.tax.metro.tokyo.jp/shisan/info/hyo01_03.pdf
別表第 1 同 【建物附属設備】
中古を取得した際の期間・計算法
償却期間は対象となる資産が法定対応年数を超過しているか否かで計算式が異なる。それぞれを確認していこう。 ( 参考 : 国税庁 |No.5404 中古資産の耐用年数 )
法定耐用年数の一部を経過した資産
法定耐用年数から経過した年数を差し引いた年数に経過年数の 20% に相当する年数を加えた年数が取得後に償却できる耐用年数だ。
( 計算例 )
(1) 法定耐用年数から経過した年数を差し引いた年数
30 年 - 10 年 = 20 年(2) 経過年数 10 年の 20% に相当する年数
10 年 × 20% = 2 年(3) 耐用年数
20 年 + 2 年 = 22 年国税庁 |No.5404 中古資産の耐用年数 引用
法定耐用年数の全部を経過した資産
償却期間の決まり方は法定耐用年数の 20% 、端数切り捨てになる。木造の建物の場合、法定耐用年数は 22 年、仮に取得時の築年数が 22 年を超える場合 22 年× 20%= は 4.4 年。端数切捨てのため償却期間は 4 年となる 。
減価償却額の決まり方
減価償却において、法定耐用年数の割り出し方は理解できた。問題になるのは不動産を取得した際に償却対象になる金額をどのように割り出すかだ。
不動産取引は通常、土地、建物合計の金額から、それぞれ建物価格、土地価格を割り出していく。よく消費税の金額を気にする例が多いが、消費税によって価格が高騰するということはない。
あくまでも市場において取引されうる総額を検討し価格設定されるからだ。
しかし不動産投資においては売買代金のうち消費税の金額が、いくら占めるかによって建物の価格が決まってくる。売買代金の土地建物の按分だ。
不動産取引時におけるこの按分によって減価償却額が決まる。
売主が消費税課税業者の場合、そして非課税業者の場合、それぞれ減価償却の対象となる建物及び設備の金額の割合の決まり方を紹介していく ( 土地は減価しないので減価償却対象ではない ) 。
これにはいくつかのパターンがあるので、それぞれのパターンを想定しながら確認してほしい 。
売主が消費税課税業者の場合
不動産売買時における消費税の額から逆算したものが建物・設備等の価格になる。その価格が減価償却対象だ。
それぞれの償却期間は大きく躯体と設備に分かれて決まる。物件取得の際の消費税の金額に注意しよう。尚、償却期間の調整も重要な為、この部分はこの記事の後半で解説する。
売主が消費税非課税業者の場合
売主が消費税非課税業者の場合、建物・設備の価格の決め方 ( 土地建物按分 ) には優先順位がある。 順番に見ていこう。
売買契約書に記載された金額
第一優先は時価ベース、つまり売買契約書記載の金額だ。この場合、注意しないといけない点としては、あまりに実態とかけ離れた価格按分にすると無効とみなされることがあるということだ。
追徴されてもしゃれにならないのでやりすぎには注意しよう。
仮に法定耐用年数を 3 倍以上超える物件で人も住んでいない、 50 ㎡程度の木造住宅だったとしよう。そのままで人が住むことも不可能であるような廃屋のような建物に対し、 五千万円、 1 億円というような価格をつけるのは当然無謀といえよう。
建物の価値があるとみなし実際に使用されており、賃貸に本日することができるという一般常識の範疇の中で収めるようにしてもらいたい。基本は次に述べる、固定資産税評価額の割合を参考としながら交渉・調整するとよい。
契約書に記載がない場合 : 固定資産税評価額の比率により按分する
売買契約書に土地、建物の按分が記載されていない場合、第一優先として固定資産税評価額の比率により按分することになる。固定資産税評価額の土地、建物金額が 1 億円、そのうち建物評価額が 1000 万円だとすると、この場合、取引売買代金の 10% 相当額が建物代金と勘定される。
契約書に記載がない場合 : 鑑定評価額を採用
費用もかかるものなので、小規模な物件の不動産取引においてはほとんど使用することはないであろう。仮に不動産鑑定士による鑑定評価がある場合、その金額の按分によって決めることもできる。
現在の日本においては民間の不動産売買取引において、売買前に不動産鑑定をするケースは非常に稀だ。
売却時の税額への影響
これまでの過程において法定耐用年数と償却額が算出できたことだろう。さて不動産投資というと節税 = 減価償却という構図がちまたでは出来上がってるように見えるが、減価償却費はたくさん取れば取るほどに本当によいのだろうか。
実はそうとはいいきれない。まず、前提として減価償却によって償却された額は資産の減損である。つまり多くを運営中に償却すれば、売却時の課税標準額が増すことになる。
減価償却を上手く利用して節税を行いたい場合、どのようなプランを描けばいいのかをここで解説していこう。まず減価償却によって影響が出る各税の種類を確認していこう 。
償却額よって変動する税
運営中の減価償却によって影響される税金は個人の場合、所得税と住民税だ。
減価償却は、その年度において実際には使用していない経費となる。そのため税引後のキャッシュフローに影響する。
減価償却費を多く計上できれば、課税所得金額を減らすせる。課税所得を基準として個人の場合は所得税と住民税率で税額が決まる。法人の場合は実効税率による税額だ。
売却時の税と税率
売却時の税金は譲渡所得税 ( 個人の場合 ) で 5 年未満の保有の場合、短期譲渡所得税率は 39%( 所得税 30%+ 住民税 9%) 、 5 年を超える保有期間後の売却長期譲渡所得 20%( 所得税 15%+ 住民税 5%) となる ( 参考 国税庁 | 土地や建物を売ったとき ) 。
法人の場合は実効税率そのものだ。 法人の場合は、保有した場合と売却した場合の税率差はない。
譲渡所得の算出計算式
譲渡所得 = 譲渡収入金額 -( 取得費 + 譲渡費用 )
減価償却とキャッシュフロー
先に紹介したが運営中に減価償却した金額が、当然取得金額から減損される。
減価償却で計上した額そのものが貸借対照表の資産の部分、建物価格から減っていく為、売却する際、減価償却費を計上しなかった場合と比べて利幅が大きくなる。
利幅が大きくなることは大変よろしいことだ。問題は後述するが、売却をするまでの期間である。
実際にはコストのかかっていない経費、減価償却は、当然大きく取ればキャッシュフローを増加させる。
保有期間中にかかる税率と売却の際にかかる税率に差がない場合、保有から売却にかけての一連の収益額が同じ場合、キャッシュフローに影響はでない。
逆に所得住民税率が譲渡所得税率よりも高い場合、キャッシュフローの恩恵は大きく受けれる。 課税となり所得税率が高い方は減価償却を大きく取れれば取れるほど税額を圧縮することができるので魅力的に映るはずだ。
一方、後述しているが運営中の税率が高いからといって全てがよいかというと実はそうとは言い切れない。⑩の中で紹介する「保有し続ける OR 売却比較法」をよく検討してもらいたい。減価償却の最大の罠と言える部分だ。
税引後のキャッシュフローで比較
上記で紹介してきた工程を理解すると、即座に判断できるよう減価償却額の決め方は運営中の純利益と売却時の利益の比率によって決まってくるだろう。つまりそれぞれの税引き後の純利益を照らし合わせる必要がある。
減価償却額決定に注意すべき事
これまでの工程の中で減価償却が及ぼす キャッシュフロー、 税額について説明してきた。減価償却額が大きくなればなるほどにメリットは大きそうだ。
しかしながらその額を決定するためには、下記の三つのポイントに注意を払わなければいけない。
貸借対照表のバランスを崩さない
減価償却費用を大きく取ればそのぶん税額が少なくなりキャッシュフローは多くなるが運営期間中、貸借対照表の資産額が減少していく。
不動産ローンを使用している場合、残債額が常に負債の部に存在する。減価償却をとればとるほどに資産の部が減少していく。そのため負債の部の方が多い債務超過状態になりかねないのだ。
不動産賃貸業の場合、決算においては簿価の資産額だけでなく、不動産の時価評価額も決算に表示する事をおすすめしている。実態をわかりやすく表現できれば経営判断や資金調達の際に役立つ。
しかし、簿価上の数字とは言え、そのバランスが崩れると当然のことながら信用は落ち、つまり格付も下がる。
すべての金融機関が簿価を優先するとは言い切らないが、当然決済内容は最重要である。資産の部にある不動産の額がローンの残債額を大きく下回るような減価償却の取り方は悪影響に繋がると覚えておこう。
定額法と定率法、二つの減価償却方法
最終的に投資対象物件が定まった際に考慮する事として、減価償却方法がある。減価償却には定額法と定率法の二種類があるので覚えておこう【国税庁 |No.2106 定額法と定率法による減価償却 ( 平成 19 年 4 月 1 日以後に取得する場合 ) 】。
本体部分に関しては現在定額法しか選べないが、設備等は定率法も選択が可能だ。減価償却対象額と償却年数、そして B/S バランスを検討し定額法、定率法を上手く組み合わせてもらおう。ここは税理士と相談して検討すべき部分だ。
デッドクロス
融資を利用しての不動産運営の場合、元本の返済部分に関してはどうしても税金がかかる。ローンの返済が進めば負債が減る、つまり純資産が増えている事になるからだ。
元本返済分の課税所得を帳消しにするような減価償却の取り方をすると税の負担は免れる。しかし、ローンの返済は多くの場合、元利均等返済のため、時間の経過とともに課税所得が大きくなる。
ローンの元本返済に対し、減価償却額が少ないとローン返済にあててキャッシュフローがでていないのに税額も払うということになりえる。不動産においてのデッドクロスという言葉はこのような状態の事をいう ( 元は株式投資用語のはず。造語 ?) 。
減価償却費よりもローンの元本額が上回る状態の事を最近では不動産でもデッドクロスと呼ぶ
※上記グラフは、当初借入額 1000 万円、借入期間 35 年、利率 2% の元利均等返済の借入条件。当初減価償却資産 400 万円、償却期間 15 年と設定した例。
減価償却は対象によって期間が決まっている。躯体と設備をうまく割り振って償却期間を調整しよう。その中で元本返済額と帳尻を合わせていられる時期を把握しておく必要性がある。
売却プランに合わせる
上記二つの視点から見ると、減価償却によってのメリットが永久的に得られるわけではないと気づいたはずだ。
必ずバランスが崩れてしまうタイミングが来る。投資の最終的な完了期は、売却だ。売却価格が最も高くなるタイミングの中で、実質的な資金、キャッシュフローが大きく得られるタイミングを測る必要がある。
運営中の税額は大きいものの、売却時が長期に入れば 20% 。売却時に大きな利益が出たとしても負担は少ない。
そのような場合は大きく減価償却を取り、運営期間中に償却金額を全て使いきりたい、そう考えるはずだ。逆に税率差がないならば何のタイミングで調整しても良い。
不動産を運営している間、売却時期を検討してこなかったという方も現時点における保有と売却の期間に役立つ比較を紹介しておこう。
判断法
減価償却のマジックは混乱しやすい。最大の罠と言えるかもしれない。減価償却を大きくとることが効果的ではないケースも出てくる。
減価償却で混乱しやすいが、共に終値なので単純に償却額を差し引いた純益を比較。税率差があればその分、税率が低い方が手残りは増える。
一方で減価償却を最大限生かすための方法がある。不動産は売却時に大きなメリットを得られるものなのだ。それが次に紹介する特例措置の存在だ。
特例措置
これまでの紹介の中で、減価償却は使用するならば税額が高い時に大きく消費し、利益をあげるときの成果が低ければ最大限効果が生まれることを紹介した。
であるならば売却時の税率が低ければ低いほどにありがたい。そのための税制を置くには用意してくれている事業用資産の買換え特例だ ( 国交省 | No.3405 事業用の資産を買い換えたときの特例 ) 。
譲渡所得税得意としている税理士との連携をお勧めする。基本的な特例に関しては把握しているが、同じ士業であっても得意不得意はある。
税制は毎年変わるだけでなく特例に至っては見逃すわけにはいかない。有益なものも出てくるだろう。我々に必要な不動産に関する情報を、リアルタイムで早く提示してくれる税理士が望ましい。
特例を受けることができる場合、税額が大きく圧縮される。特例措置を受けることを前提に不動産を売却するならば、運営している間に最大限減価償却を取ることができるだろう。
参考
( 国交省 |No.3414 売った金額より少ない金額で事業用の資産を買い換えたとき )
( 国交省 |No.3417 売った金額以上の金額で事業用の資産を買い換えたとき )
まとめ
不動産経営において非常に大きな影響をもたらす減価償却について基礎から応用まで紹介してきた。
非常に関心の高いものだが、例えば今回一番最初に紹介した同じ構造でも用途で償却期間が異なるという事はご存じなかった方もいたかもしれない。
減価償却費は物件の取得時、大規模修繕時等に償却額や償却期間を設定していく為、事業計画時に設定するものである。
その為、基礎の把握だけでは足りず、運用プランによって影響する事に注視し決定する必要があった。
基本的に精度、決まり事を確認していく過程だった為、まとめという程にまとまらないが、ご了承頂きたい。
あとがき
不動産投資の醍醐味といわれる減価償却について一つ一つ確認してみた。減価償却はうまく活用すると非常に大きなメリットを得ることができる。
しかし運営費のみに視点を合わせてしまうケースが多い点と一部分のみを視点においている情報が目立つ。
投資はあくまでも運用期間、売却までをトータルで見る必要性がある。収益を大きくしようとしても、場合によっては間違った活用によって自身の信用を毀損するということにもつながりかねない事もお伝えした。
今回紹介したこの工程をそれぞれ深く理解していただき、減価償却で実質的な利益を得つつかつ、将来に繋げる強い経済体制を作っていただきたい。
皆様のお役にたつ記事である事を願う。